株式会社リスピレイション

制作の実務

サンプリングとAIのサイト制作。借りることと、確かめること

ヒップホップは、既存の録音を切り出して組み直すサンプリングを文化として進化してきました。生成AIでサイトを作るのも、同じ「借りて組み直す」構造をしています。違いは出所が見えるかどうか。その違いから、AIで作るときに作り手が確かめることを整理します。

執筆
shoji NKD

私の青春時代はヒップホップカルチャーにどっぷりハマり何もかもが新鮮でインターネットが無い時代でも、雑誌やビデオ、先輩や友達から話しを聞いて新しい情報をディグしていました。数十年たった今もやってる事は同じですが、生成AIが出て来てからコンテンツ制作の幅が広がり、形違えどやってる事は似ているなと考えています。

そんな中、生成AIでサイトを作っていると話すと、「それは自分たちの仕事と言えるのか」と聞かれることがあります。この問いには、音楽の世界に先例があります。ヒップホップのサンプリングです。

サンプリングとは

サンプリングは、既存の録音の一部を切り出し、別の曲の中で鳴らす手法です。ドラムの数小節、ホーンの一音、歌の一節。ヒップホップは、これを文化として育ててきました。

新しいのは素材ではありません。どこを切り、何と重ね、どの文脈に置くか。同じ数小節でも、置く場所が変われば別の意味を持ちます。

AIで作るのも、同じ構造をしている

生成AIは、大量の既存の文章やコードから学び、その傾向をもとに答えを組み立てます。ゼロから発想しているわけではない点は、サンプリングとよく似ています。

だから、価値が出る場所も同じです。出てきたものをどこで使い、どこを捨て、自社の事業や読み手の文脈にどう置き直すか。そこが作り手の仕事になります。

違うのは「出所」が見えるかどうか

サンプリングでは、元ネタが特定できます。どのレコードの、どの部分か。聴けば分かる人がいて、調べればたどれます。

AIの出力は、出所が溶けています。どの文章やコードをもとにした答えなのか、出力を見ても分かりません。古い情報や誤った書き方が混ざっていても、見た目は整っています。

そのため、確かめる責任は作り手の側に残ります。

元ネタを知らずに使うと、何が起きるか

サンプリングの歴史には、出所を軽く扱った結果が記録されています。

1つ目は「Amen Break」です。The Winstons が 1969 年に出した「Amen, Brother」の、ドラムだけの数秒間。音楽史上もっとも多くサンプリングされた音源の一つとされます。ところが、作者の側は長く対価を受け取れませんでした。権利を持つリチャード・L・スペンサーがこの広まりを知ったのは 1996 年で、権利を主張できる期限は過ぎていました。ドラムを叩いたグレゴリー・コールマンは、2006 年に困窮のうちに亡くなっています。2015 年、イギリスの DJ の呼びかけで募金が集まり、2 万ポンドを超える額がスペンサーに届けられました。

2つ目は、1991 年の判決です。ラッパーのビズ・マーキーが、ギルバート・オサリバンの「Alone Again (Naturally)」を許諾なく使った件で、ニューヨークの連邦地裁は、無断のサンプリングを著作権の侵害と判断しました。この判決のあと、使う前に権利者の許諾を取る「サンプルクリアランス」が、業界の前提になりました。

AIの学習と出力をめぐっても、同じ問いがいま議論されています。結論はまだ出ていません。それでも、出所の分からないものをそのまま自分のものとして出す危うさは、音楽が先に経験しています。

良いサンプリングの条件は、良いAI活用の条件と同じ

評価されてきたサンプリングには、共通する作法があります。そのまま、AIの使い方に置き換えられます。

  • 元ネタを知っている。AIの出力が、何に基づく話なのかを確かめる。
  • 切り方に意図がある。使う部分と捨てる部分を、自分で決める。
  • 自分の文脈に置き換える。一般論のままにせず、自社の事業や読み手に合わせて書き直す。
  • 借りたものを明らかにする。引用や参照した資料は、出典として示す。

このサイトでやったこと

このサイトも、AIと一緒に作りました。ただし、AIの出力を確かめずに公開した箇所はありません。

  • 配色は、文字と背景のコントラスト比を計算して決め、できあがったページでも測り直しました。
  • JavaScript を止めた状態で全ページを開き、内容が読めることを確かめました。
  • 記事の数字や年号は、出典で確かめたものだけを書いています。この記事も同じです。

ループをそのまま流すのではなく、切って、置き直して、確かめる。サンプリングの作法は、そのままAIで作るときの作法になります。

おわりに

AIを使えば、速く作れます。けれど、速く作れることと、確かめてあることは別です。ヒップホップが借りることを文化にできたのは、元ネタへのリスペクトと、組み直す技術があったからでした。AIで作るときにも、同じものが問われています。

出典

  • Grand Upright Music, Ltd. v. Warner Bros. Records Inc., 780 F. Supp. 182(S.D.N.Y. 1991)。判決の概要は Wikipedia の同名の項目で確認しました。
  • 判決が業界に与えた影響:Austin Chronicle「All Samples Cleared」
  • Amen Break の経緯:Wikipedia「Amen break」
  • 作者への募金:Mixmag(2015年)、Crack Magazine(2015年11月)
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