答えが分からないまま決める前に。フェルミ推定で「桁」をつかむ
生成AIの導入もサイトの改修も、正確な数字は出せません。それでも桁が分かれば判断できます。分解して前提を書き、概算で見積もるフェルミ推定の使い方を、2 つの例で説明します。
- 執筆
- shoji NKD
「やってみないと分かりません」で止まる話が、よくあります。生成AIを入れるかどうか、サイトを直すかどうか。正確な数字は出せなくても、桁が分かれば決められます。月に 10 時間なのか、100 時間なのか。その差は、やるか後回しかを分けます。
フェルミ推定とは
手元にある事実と、いくつかの仮定に分けて、おおよその答えを出す方法です。物理学者のエンリコ・フェルミが、こうした概算を得意としたことから、この名で呼ばれます。
大事なのは、当てることではありません。どう分解し、何を前提に置いたかを、言葉にして残すことです。あとで前提が違ったと分かったとき、どこを直せばよいかが分かります。
やってみる:生成AIで、問い合わせ対応は何時間減るか
例として、こう置きます(数字は説明のための仮の値です)。
- 問い合わせメールは 1 日 20 件。月 20 営業日で 400 件。
- 1 件の返信に、読む・書く・確認するで 10 分。月に約 67 時間。
- 下書きを生成AIに任せると、書く時間が半分になる。読むと確認は変わらない。
書く時間が 10 分のうち 6 分だとすると、減るのは 3 分。400 件で月 20 時間です。ここで止めず、増える手間も引きます。下書きを確かめる時間が 1 件 30 秒なら、月 3.3 時間。差し引き約 17 時間が、月に浮く見込みになります。
この計算で大事なのは「17」という数字ではありません。「月に 10 時間台」という桁と、どの前提が崩れると結果が変わるか(削減率と、確認にかかる時間)が分かることです。
やってみる:記事を増やすと、問い合わせは何件増えるか
検索からの流入も、同じように分解できます。
- 検索結果に出た回数が月 3,000 回。
- そのうち 3% が開く(90 回)。
- 開いた人の 2% が問い合わせる(1.8 件)。
月に 2 件弱です。この桁が見えると、「記事を 10 本増やして月 20 件」という期待が現実的かどうかを、着手する前に点検できます。掛け算の最後に小さな率が並ぶと、結果は一気に小さくなります。
なお、当社では検索順位や問い合わせ件数を保証しません。ここで出したのも、桁をつかむための概算です。
外しやすいところ
- 掛ける数が増えるほど、誤差が広がる。3 つまでに収め、それ以上は分けて考えます。
- 削減率を楽観的に置く。「半分になる」は、多くの場合 2〜3 割です。
- 増える手間を数え忘れる。確認、手直し、教育。導入するほど増えます。
- 平均で割り切る。10 分で終わる問い合わせと 1 時間かかる問い合わせは、分けて数えたほうが実態に近づきます。
生成AIに数字を聞くときは
生成AIは、もっともらしい数値を返します。出所のない数字が混ざることもあります。桁は自分で置き、AIには別の役割を与えるのが安全です。
- 分解の抜けを探させる。「この計算で数え忘れている手間は何か」と聞く。
- 前提を変えた場合を並べさせる。削減率が 2 割・3 割・5 割のときの結果を一覧にする。
- 出てきた数字は、必ず出所を確かめる。社内に実績値があるなら、そちらを使います。
このサイトでやったこと
この簡易診断(/search/check/)を作ったときも、同じ順でやりました。
配信の仕組みには、1 回の処理で使える計算時間の上限があります。無料の範囲では 10 ミリ秒です。最初の設計は「入力された URL のページに加えて、サイトマップから数ページを取って読む」でした。1 ページ読むのにどれくらい計算するかを置き、ページ数を掛けると、冷えた状態の 1 回目で 30 ミリ秒前後。上限の 3 倍です。
この時点で、作り込む前に設計を変えました。読むのは入力されたページ 1 枚だけにし、項目も減らして「簡易診断」と名づけました。実際に測ると、1 回目で約 6 ミリ秒、2 回目以降は 1 ミリ秒未満。上限には当たっていません。
連投を止める仕組みでも、見積もりと実測がずれました。配信の仕組みに付いている回数制限を入れ、同じ相手から 60 秒に 3 回までのつもりでした。ところが本番で 13 回続けても止まりません。仕組みの説明を読み直すと、拠点ごとに概算で数える作りで、正確には数えないと書かれていました。そこで、別の仕組み(通信の入口側の制限)に変えています。
どちらも、桁で見ておいたから早く気づけました。見積もりが外れること自体は問題ではありません。外れたと分かる形にしておくことが大事です。
おわりに
フェルミ推定は、特別な技術ではありません。分解して、前提を書き、桁で見る。それだけです。正確さより、判断を前に進められることに意味があります。
当社では、AI活用支援でも検索・生成AI対応でも、最初にこの概算を一緒に置きます。やらないという判断も、同じ材料で決められるようにするためです。